
この記事で分かること
- 空調システムで分ける4種類の流れ
- IBDのポート・インターフェース・境界
- 流れの抜け漏れを設計レビューで確認する方法
目次
- 結論:IBDは流れの種類ごとにビューを分ける
- ポートを「線の接続点」ではなくインターフェース契約にする
- 冷媒・空気・電力・信号・保護のビュー
- 状態と故障をIBDに接続する
- IBDを設計レビューで使う
- 検証ケースへ変換する
- 参考資料
空調のIBDは部品の配置図ではなく、冷媒・空気・電力・信号がどの境界を越えるかを明確にする図です。流れごとに単位と責務を分けると設計変更の影響を追いやすくなります。
空調機の内部ブロック図、つまりSysMLのIBDは、部品同士の接続を表すだけの図ではありません。冷媒、空気、電力、信号、保護の流れを分けて表現することで、設計変更の影響、制御の前提、FMEAの抜け、試験条件を確認しやすくする図です。
実務でよく起きる問題は、冷媒配管、風路、電源、センサ信号、通信、保護信号が一つの図に混ざり、誰のための図なのか分からなくなることです。冷凍サイクル担当は冷媒の流れを見たい、制御担当はセンサとアクチュエータを見たい、品質保証は異常検知と保護停止を見たい。この関心の違いをIBDで整理します。
この記事では、空調室外機を例に、IBDで冷媒・空気・電力・信号の流れを実務的に整理する方法を解説します。
内部ブロック図では、冷媒・空気・電力・信号を混ぜずに分けて見ることが最重要です。
結論:IBDは流れの種類ごとにビューを分ける
空調機のIBDでは、すべての接続を一枚に詰め込まないことが重要です。まず全体ビューで主要ブロックを示し、その後に冷媒、空気、電力、信号、保護のビューへ分けます。同じブロックを使いながら、関心ごとに接続を切り替えるイメージです。

| ビュー | 主な対象 | レビューで見ること |
|---|---|---|
| 冷媒ビュー | 圧縮機、熱交換器、膨張弁、四方弁、配管 | 圧力損失、冷媒量、油戻り、漏えい |
| 空気ビュー | ファン、熱交換器、風路、フィルタ、筐体 | 風量、ショートサーキット、騒音、汚れ |
| 電力ビュー | 電源、インバータ、ファンモータ、制御基板 | 消費電力、ピーク、保護、発熱 |
| 信号ビュー | センサ、制御器、アクチュエータ、通信 | 入力、制御指令、遅延、欠損 |
| 保護ビュー | 圧力、温度、電流、異常判定、停止 | フェイルセーフ、復帰条件、誤検知 |
ビューを分けると、図が増えるように見えます。しかし一枚の巨大な図を解読するより、目的別の図を使う方がレビュー時間を短縮できます。
ポートを「線の接続点」ではなくインターフェース契約にする
OMGのSysML v1仕様では、IBDはブロック内部のpart、port、connectorを表す図です。実務では、ポートに少なくとも「何が」「どちら向きに」「どの範囲で」「どの状態のとき」流れるかを持たせます。線だけでは、異機種間や機械・電気・ソフト間の受入条件を検証できません。
| 契約項目 | 冷媒ポート例 | 空気ポート例 | 電力ポート例 | 信号ポート例 |
|---|---|---|---|---|
| 流れと方向 | `refrigerantOut` | `outdoorAirIn` | `dcBusIn` | `dischargeTempOut` |
| 型・単位 | 冷媒種、質量流量 kg/s、圧力 Pa、温度 K、比エンタルピ J/kg | 乾球温度 °C、相対湿度 %RH、質量流量 kg/s | 相数、電圧 V、周波数 Hz、電流 A | 物理量、単位、データ型、更新周期 s |
| 許容範囲 | 運転モード別の min/maxと瞬時許容 | 設計風量と外部静圧条件 | 定常、起動、瞬低時の範囲 | 正常範囲、分解能、許容遅延、欠損判定時間 |
| 条件 | 冷房・暖房・除霜・停止 | ファン速度、設置間隔、汚れ状態 | 商用電源、インバータ状態 | 起動中、定常中、保守中、通信断中 |
| 異常時契約 | 閉止・減圧・運転停止の優先順位 | 閉塞検出と能力制限 | 遮断、放電後の安全電圧確認 | 品質フラグ、代替値、タイムアウト、復帰条件 |
数値はこの表の例から流用せず、対象機種の設計条件、試験規格、冷媒物性、部品仕様から決めます。特に冷媒は圧力と温度だけで相状態を決めつけず、冷媒組成、比エンタルピ、品質の適用範囲を確認します。
最初にブロックの境界を決める
IBDの前提として、BDDでブロックの境界を決めます。室外機を対象にするなら、冷媒回路、送風系、電装系、センサ系、筐体系、制御ソフト、外部インターフェースを第一階層に置くと整理しやすくなります。
境界が曖昧なままIBDを描くと、同じ部品が複数の役割で登場し、接続の意味が分からなくなります。たとえば「温度センサ」は部品としてはセンサ系ですが、信号ビューでは制御器への入力、保護ビューでは異常判定の根拠になります。ブロック自体は共通にし、ビューごとに関係を変えます。
| ブロック境界 | 含めるもの | 注意点 |
|---|---|---|
| 冷媒回路 | 圧縮機、熱交換器、膨張弁、配管 | 制御器を冷媒部品に混ぜない |
| 送風系 | ファン、モータ、風路、グリル | 空気流れと騒音を分けて見る |
| 電装系 | インバータ、基板、電源、通信 | 発熱と保護を考える |
| センサ系 | 温度、圧力、電流、回転数 | 信号品質と故障モードを持たせる |
| 筐体系 | 外板、ベース、点検口、ドレン | 風路、騒音、保守へ関係する |
ブロック境界は組織の担当分けと完全に一致しなくても構いません。むしろ、要求や故障モードに責任を持てる境界かどうかを優先します。
冷媒の流れを表す
冷媒ビューでは、冷媒がどの順に流れ、どこで圧縮、放熱、減圧、吸熱、切替、分岐、合流するかを表します。冷房と暖房で流れが変わる場合は、同じ図に矢印を重ねるより、運転モード別に分ける方が読みやすくなります。
冷媒ビューで見るべきポイントは、単なる接続ではありません。圧力損失、冷媒量、油戻り、冷媒漏えいリスク、センサ位置、サービスバルブ、配管振動、四方弁切替、除霜時の逆流などです。
| 確認項目 | IBDで示す内容 | 関連要求 |
|---|---|---|
| 圧力損失 | 配管、弁、熱交換器の接続 | COP、能力 |
| 冷媒量 | 熱交換器、配管、アキュムレータ | 性能、信頼性 |
| 油戻り | 圧縮機、配管勾配、運転状態 | 圧縮機信頼性 |
| 漏えい | 継手、ろう付け、振動部 | 法規制、保守、品質 |
| センサ位置 | 温度、圧力測定点 | 制御、保護、診断 |
冷媒ビューは、FMEAやDRBFMと強くつながります。配管経路変更、熱交換器変更、膨張弁変更がどの要求や故障モードに影響するかを追いやすくなります。
空気の流れを表す
空気ビューでは、ファン、熱交換器、風路、吸込、吹出、ショートサーキット、フィルタ、筐体開口を示します。冷媒ビューだけでは、熱交換性能の前提である風量や空気温度条件が見えません。
空気の流れは、COP、能力、騒音、霜付き、汚れ、設置条件に影響します。室外機では、壁際設置、複数台設置、排気再吸込、積雪、フィン汚れが性能に効く場合があります。IBD上では、外部環境を境界ブロックとして置き、空気条件を明示するとレビューしやすくなります。
| 観点 | 確認する接続 | リスク |
|---|---|---|
| 吸込 | 外気、グリル、熱交換器 | 汚れ、閉塞、積雪 |
| 吹出 | ファン、ベルマウス、外部環境 | ショートサーキット、騒音 |
| 熱交換 | 空気側と冷媒側の接続 | UA低下、霜付き |
| 設置 | 壁、天井、隣接機 | 風量低下、再吸込 |
空気ビューは、構造設計と設備管理の橋渡しにもなります。設計段階で想定した空気条件が、実際の設置環境で成立するかを確認できます。
電力の流れを表す
電力ビューでは、電源入力、インバータ、圧縮機モータ、ファンモータ、制御基板、センサ電源、通信機器を表します。電力の流れは、消費電力、ピーク電力、発熱、保護、EMC、故障診断に関係します。
COPを議論するとき、冷凍サイクルだけでなく補機電力を見落とさないことが重要です。ファン回転数、ポンプ、制御基板、通信機器、センサの電力は小さく見えても、運転条件によって効いてきます。
| 電力ビューの確認項目 | 関係する要求 | 注意点 |
|---|---|---|
| 圧縮機入力 | COP、能力、保護 | インバータ効率と電流上限 |
| ファン入力 | COP、騒音、熱交換 | 風量不足とのトレードオフ |
| 制御基板電源 | 信頼性、保護 | 停電復帰、瞬低、発熱 |
| センサ電源 | 診断、AI制御 | 欠損、断線、ノイズ |
電力ビューを作ると、AI制御やBEMS連携で必要な電力計測点も整理できます。どの電力を全体消費として見るのか、どこまでを制御対象とするのかを明確にします。
信号と保護の流れを表す
信号ビューでは、センサから制御器へ入る値、制御器からアクチュエータへ出る指令、外部システムとの通信を表します。保護ビューでは、異常判定、停止、復帰、表示、ログを表します。信号ビューと保護ビューは似ていますが、目的が違うため分けるとよいです。
信号ビューは、通常制御を理解するための図です。室温、外気温、熱交換器温度、圧力、電流、回転数、弁開度、ファン回転数、通信指令を整理します。AI制御では、予測に使うデータ、欠損時の扱い、制御上限、説明可能性も含めます。
保護ビューは、異常時に安全側へ移るための図です。センサ異常、高圧、低圧、過電流、吐出温度上昇、凍結、通信断などを検知したとき、どの状態へ遷移し、どの条件で復帰するかを示します。
| 観点 | 信号ビュー | 保護ビュー |
|---|---|---|
| 主目的 | 通常制御の入力と出力 | 異常検知と安全側動作 |
| 対象 | センサ値、指令、通信 | しきい値、停止、復帰、表示 |
| レビュー担当 | 制御、AI、電装 | 制御、品質、安全、サービス |
| 注意点 | 遅延、欠損、ノイズ | 誤検知、未検知、復帰条件 |
AI制御では、AIの出力が直接アクチュエータを動かすのか、従来制御の設定値を補正するのかを明確にします。保護要求はAI判断より上位に置き、制御上限と停止条件をIBDと状態機械図で追えるようにします。
状態と故障をIBDに接続する
IBDは構造を示しますが、コネクタが常に同じ向き・同じ条件で有効とは限りません。四方弁を持つヒートポンプでは冷房と暖房で冷媒流れが変わり、除霜中は室内側風量や圧縮機周波数の制約が変わります。そこでコネクタに状態名を添え、状態機械図のガード条件と同じIDで追跡します。
| 故障・外乱 | 最初に変化するフロープロパティ | 横断影響 | モデル上の検出と対応 | 検証証拠 |
|---|---|---|---|---|
| 室外熱交換器の閉塞 | 空気質量流量↓、空気側差圧↑ | 冷媒圧力、風扇電力、能力、騒音 | 風量不足判定→能力制限→保守通知 | 閉塞率別の風量・圧力・電力ログ |
| 温度センサ固着 | 温度信号の変化率がゼロ | 過熱度制御、保護判定、故障診断 | 他センサとの不整合→代替制御→手動確認後復帰 | 固着値注入と誤検知・未検知評価 |
| 通信断 | 更新周期超過、品質フラグ異常 | 上位設定、デマンド制御、時刻同期 | 最終正常値の無期限保持を禁止し、ローカル制御へ縮退 | 通信遮断時間を振った縮退・復帰試験 |
| 電源瞬低 | DCバス電圧↓ | インバータ停止、制御器再起動、ログ欠落 | 低電圧検出→安全停止→起動許可条件の再確認 | 瞬低波形、再起動順序、二重起動がないこと |
保護しきい値や復帰待ち時間は製品仕様によって異なるため、ここで一律の数値は示しません。単なる「異常時は停止」ではなく、検出条件、停止シーケンス、縮退可否、ラッチ条件、自動復帰の上限回数を要求IDで結びます。
IBDを設計レビューで使う
IBDは描いて終わりではありません。設計レビューでは、要求、ブロック、ポート、流れ、状態、検証を確認します。特に変更が入った場合は、変更対象の流れだけでなく、他の流れへの影響を見ます。

| 変更対象 | 冷媒 | 空気 | 電力 | 信号 | 保護 |
|---|---|---|---|---|---|
| ファン変更 | 熱交換条件 | 風量、騒音 | 電力、発熱 | 回転数指令 | 異常検知 |
| 膨張弁変更 | 冷媒流量 | 間接影響 | 駆動電力 | 開度指令 | 過熱度保護 |
| センサ追加 | 測定点 | 設置位置 | センサ電源 | 入力信号 | 異常診断 |
| 筐体変更 | 配管振動 | 風路、騒音 | 基板冷却 | 配線経路 | 点検性 |
このようなマトリクスを使うと、IBDが設計変更レビューの実務道具になります。
よくある失敗
IBDでよくある失敗は、すべての接続を一枚に入れてしまうことです。情報量が多すぎる図は、関係者が見なくなります。もう一つの失敗は、ポートや流れの種類を曖昧にすることです。冷媒なのか、空気なのか、電力なのか、信号なのか分からない線は、レビューで誤解を生みます。
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 一枚に詰め込む | 誰も読めない | 流れ別ビューに分ける |
| 線の意味が曖昧 | 設計責任が分からない | ポート種別と凡例を決める |
| 冷媒ビューだけ作る | 制御や保護が抜ける | 信号、保護ビューを追加する |
| 外部環境を描かない | 設置条件を見落とす | 外気、室内、BEMSを境界に置く |
| AI制御を黒箱にする | データ要件と制限が不明 | 入力、出力、制限、保護を分ける |
インターフェース契約を検証ケースへ変換する
図が正しいかは見た目ではなく、ポート契約から試験を導出できるかで判定します。例えば `T_discharge` 信号なら、正常値だけでなく、上限付近のランプ入力、断線、短絡、固着、突変、タイムスタンプ逆転を入力し、検出から制限運転・停止・表示・復帰までを確認します。
| 検証ID | 元の契約 | 試験入力 | 合格条件の例 | 記録する証拠 |
|---|---|---|---|---|
| V-REF-01 | 冷媒ポートの質量保存 | モード別の定常・過渡データ | 不平衡が計測不確かさと冷媒蓄積を含む許容差内 | 時系列、物性版、センサ較正情報 |
| V-AIR-01 | 空気ポートの設計風量 | 外気条件、設置間隔、閉塞率を振る | 風量と能力が機種固有の受入範囲内 | 風量 kg/s、圧力 Pa、温湿度、風扇電力 |
| V-PWR-01 | 電力ポートの瞬低契約 | 仕様で定めた電圧・時間プロファイル | データ破損や無制御再起動がない | 入力波形、DCバス、状態遷移、異常ログ |
| V-SIG-01 | 上位通信の有効期限 | 遅延・順序逆転・通信断 | 期限切れ値を使わず、所定時間内にローカル制御へ移行 | 受信時刻、品質フラグ、却下理由、復帰判定 |
共通モデルの数値と実機の合格基準は分けて管理します。NIST REFPROPなどの物性ソースは計算の根拠になりますが、個別製品の配管容積、油量、センサ精度、制御ロジックまで保証するものではありません。
参考資料
- Object Management Group, SysML v1 Specification — IBD、block、port、connector、requirement・verification関係の定義確認(確認日: 2026-09-01)
- NIST, Reference Fluid Thermodynamic and Transport Properties Database (REFPROP) — 冷媒の密度、圧力、粘度、比エンタルピなど物性モデルの適用範囲確認(確認日: 2026-09-01)
- U.S. Department of Energy / EnergyPlus, Engineering Reference 24.1 — 空気系ノード、質量流量、熱収支、HVACコンポーネントのモデル化確認(確認日: 2026-09-01)
- ASHRAE, BACnet™: A Data Communication Protocol for Building Automation and Control Networks — BAS連携を扱う場合のアナログ・バイナリ入出力、アラーム、トレンドログ等の情報交換範囲確認(確認日: 2026-09-01)
- 自社の設計標準、試験標準、品質保証基準、対象機種の仕様書、FMEA、保守記録 — 個別製品の閾値と受入条件はこれらを正とする
次に読むなら
次に読むなら、空調設計で活用するSysML図の優先順位:最初に習得すべき5種類 がおすすめです。このテーマの全体像を整理する柱記事です。
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まとめ
空調機のIBDは、冷媒回路を描くためだけの図ではありません。冷媒、空気、電力、信号、保護の流れを分けて表現し、要求、構造、状態、検証へ接続するための図です。
最初にBDDでブロック境界を決め、IBDでは目的別のビューを作ります。冷媒ビューでは圧力損失、冷媒量、油戻り、漏えいを見ます。空気ビューでは風量、ショートサーキット、騒音、設置条件を見ます。電力ビューでは消費電力、ピーク、発熱を見ます。信号ビューと保護ビューでは、通常制御と異常時の安全側動作を分けて確認します。
この整理ができると、設計変更時に「どの流れへ影響するか」を追いやすくなります。IBDは静的な接続図ではなく、空調設計の部門横断レビューで使う影響分析の地図です。
次に読む記事としては、次の3本が自然です。
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