状態機械図で冷房・暖房・除霜・異常停止をモデル化する

この記事で分かること
- SysML図を実務で使い分ける判断基準
- 要求図、BDD、IBD、状態機械図の役割
- モデルを設計レビューへ接続する手順
空調機の制御仕様で難しいのは、定常運転ではなく<u>状態の切り替わり</u>です。冷房、暖房、除霜、サーモオフ、起動、停止、異常停止、保護復帰は、それぞれ要求、制御条件、センサ、アクチュエータ、試験方法が異なります。文章だけで管理すると、遷移条件や復帰条件の抜けが起きやすくなります。
SysMLの状態機械図は、空調機がどの状態にあり、どのイベントや条件で次の状態へ移るかを表す図です。制御ソフトの詳細実装をすべて描くためではなく、設計レビューで「この条件ではどの状態へ行くべきか」「異常時に安全側へ移るか」「AI制御の判断をどこまで許すか」を確認するために使います。
この記事では、冷房、暖房、除霜、異常停止を題材に、空調機の状態機械図を実務で使える形にする方法を解説します。
状態機械図では、正常運転よりも除霜や異常停止などの例外条件を先に決めることが重要です。
結論:状態機械図は制御仕様と保護要求の境界を見える化する
状態機械図で最初に見るべきことは、通常制御と保護制御の境界です。通常制御では、快適性、省エネルギー、騒音、応答性を満たすように運転状態を切り替えます。一方、保護制御では、高圧、低圧、過電流、吐出温度上昇、センサ異常、通信断などが発生したとき、安全側へ移ります。

| 状態 | 主な目的 | 遷移条件の例 | レビュー観点 |
|---|---|---|---|
| 停止 | 待機、安全確保 | 運転指令、異常解除 | 再起動条件 |
| 起動 | 圧縮機、ファン、弁の初期化 | 安定判定、異常検知 | 起動失敗、異音 |
| 冷房 | 室内負荷を下げる | 設定到達、異常、停止指令 | COP、快適性、保護 |
| 暖房 | 室内負荷を上げる | 霜付き、異常、停止指令 | 除霜判定、吐出温度 |
| 除霜 | 室外熱交換器の霜を溶かす | 終了判定、タイムアウト | 快適性、復帰 |
| 異常停止 | 安全側に停止する | 復帰条件、手動解除 | フェイルセーフ |
このように状態を分けると、要求図やIBDで整理したセンサ、制御器、アクチュエータ、保護要求をつなげやすくなります。
状態を運転モード、遷移条件、出入口処理で定義する
状態機械図で重要なのは、状態名だけを並べないことです。各状態には、入る条件、状態中の処理、出る条件、異常時の遷移を持たせます。たとえば冷房状態なら、圧縮機周波数、膨張弁開度、ファン回転数、室温制御、過熱度制御、保護監視が関係します。
| 定義項目 | 内容 | 空調機での例 |
|---|---|---|
| entry | 状態へ入ったときの処理 | 弁初期開度、ファン起動、タイマ開始 |
| do | 状態中に継続する処理 | 室温制御、過熱度制御、AI予測補正 |
| exit | 状態を出るときの処理 | ログ記録、弁保持、ファン遅延停止 |
| transition | 状態遷移の条件 | 設定到達、霜付き判定、異常検知 |
| guard | 遷移の成立条件 | 外気温、運転時間、圧力、温度 |
文章仕様では「除霜条件を満たしたら除霜する」と書かれがちですが、状態機械図では、どの状態から除霜へ入れるのか、冷房中は除霜しないのか、異常停止中はどう扱うのか、除霜終了後に暖房へ戻るのか停止へ戻るのかを明確にできます。
冷房状態をモデル化する
冷房状態では、室内負荷を下げることが主目的です。冷媒回路、送風、電力、信号が連動します。状態機械図では、冷房開始、冷房定常、サーモオフ、低負荷、異常停止への遷移を分けるとレビューしやすくなります。
| 冷房のサブ状態 | 主な処理 | 遷移条件 |
|---|---|---|
| 冷房起動 | 圧縮機起動、膨張弁初期化、ファン起動 | 起動安定、異常検知 |
| 冷房定常 | 室温制御、過熱度制御、ファン制御 | 設定到達、負荷低下 |
| サーモオフ | 圧縮機停止または低出力、送風維持 | 室温上昇、停止指令 |
| 低負荷運転 | 最小能力、断続運転 | 負荷回復、停止、異常 |
冷房状態で見落としやすいのは、サーモオフや低負荷時の扱いです。省エネルギーを狙って停止を増やすと、快適性、再起動回数、圧縮機寿命、騒音に影響します。状態機械図で遷移回数や待機時間を明示すると、制御設計と信頼性の議論がしやすくなります。
暖房と除霜をモデル化する
暖房状態では、室外熱交換器の霜付きと除霜が重要です。除霜は快適性と効率に直接影響します。除霜を単なるタイマ処理として扱うと、外気条件、湿度、熱交換器温度、運転時間、センサ異常を見落とします。

| 状態 | 監視する値 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暖房起動 | 吐出温度、圧力、ファン、弁 | 起動直後の保護 |
| 暖房定常 | 室温、外気温、熱交温度、電流 | 霜付き兆候 |
| 除霜準備 | 圧縮機周波数、四方弁、ファン | 切替音、圧力変動 |
| 除霜中 | 熱交温度、時間、圧力 | 快適性、復帰条件 |
| 暖房復帰 | ファン復帰、弁制御、室温回復 | 温度落ち込み |
除霜終了条件は、温度、時間、圧力、運転履歴を組み合わせます。AI制御を使う場合でも、除霜を完全にAI任せにするのではなく、上限時間、保護停止、復帰条件を明確にします。
異常停止と復帰条件を分ける
異常停止は、状態機械図で特に重要な領域です。異常を検知して停止する条件と、停止後に復帰してよい条件は別です。ここを混ぜると、誤復帰、再発、保護不足につながります。
| 異常 | 停止条件 | 復帰条件 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 高圧異常 | 圧力上限超過 | 圧力低下、待機時間、回数制限 | 再起動抑制 |
| 吐出温度上昇 | 温度上限超過 | 温度低下、原因確認 | 冷媒不足や風量不足 |
| センサ異常 | 断線、短絡、値の固着 | センサ正常化、手動確認 | 代替値の扱い |
| 通信断 | 制御指令途絶 | 通信回復、停止保持 | 外部BEMS連携 |
| 過電流 | 電流上限超過 | 待機、再試行回数 | インバータ保護 |
状態機械図では、異常停止を一つにまとめる場合でも、異常種別、ログ、表示、復帰条件は表で管理します。安全や法規制に関わる内容は、対象製品の設計基準や関連規格に従って別途確認が必要です。
AI制御を状態機械図へ接続する
AI制御を導入すると、状態機械図の重要性はさらに高まります。AIが熱負荷を予測し、設定温度、圧縮機周波数、ファン回転数、除霜タイミングを補正する場合でも、状態遷移のルールと保護要求は明確にしておく必要があります。
AI制御は、状態機械図上では「通常制御の補正」として扱うのか、「状態遷移の判断補助」として扱うのかを分けます。たとえば、冷房定常中の省エネ補正は通常制御の範囲ですが、異常停止を解除する判断をAIに任せるのは慎重に扱うべきです。
| AIの使い方 | 状態機械図での扱い | 必要な制限 |
|---|---|---|
| 熱負荷予測 | 冷房・暖房定常の補正 | 上下限、快適性、欠損時処理 |
| 除霜予測 | 除霜準備への判断補助 | 上限時間、保護優先、手動確認 |
| 異常予兆 | 保護監視への入力 | 誤検知、説明可能性、ログ |
| ピーク抑制 | 運転出力の制限 | 快適性、安全要求、復帰 |
AIの判断は、センサ欠損や外れ値に弱い場合があります。状態機械図には、AI入力が欠損した場合、予測値が異常な場合、通信が途絶した場合の遷移も入れておくと、現場導入時のリスクを減らせます。
試験条件とFMEAへつなげる
状態機械図は、試験計画やFMEAへつなげて初めて価値が出ます。各状態と遷移に対して、確認する試験、想定故障、検出方法、対策を対応させます。
| 状態・遷移 | 試験例 | FMEA観点 |
|---|---|---|
| 起動から冷房定常 | 起動試験、異音確認 | 起動失敗、弁初期化不良 |
| 暖房から除霜 | 霜付き条件試験 | 除霜遅れ、誤判定 |
| 除霜から暖房復帰 | 復帰時間、室温低下 | 快適性低下、圧力変動 |
| 任意状態から異常停止 | 異常注入試験 | 未検知、誤停止 |
| 異常停止から復帰 | 復帰条件確認 | 再発、危険側復帰 |
この対応を作ると、制御仕様、試験仕様、FMEAが別々に更新されるリスクを下げられます。状態機械図は制御担当だけの資料ではなく、品質保証、試験、サービス、AI制御担当が共通で見る資料になります。
よくある失敗
状態機械図でよくある失敗は、正常運転だけをきれいに描いて、異常時や復帰条件を後回しにすることです。空調機では、保護停止や除霜復帰の方が現場不具合につながりやすい場合があります。
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 状態名だけ並べる | 実装条件が分からない | entry、do、exit、guardを書く |
| 異常停止を一つにまとめる | 復帰条件が曖昧になる | 異常種別と復帰条件表を併用する |
| 除霜をタイマだけで扱う | 外気条件や霜付き差を見落とす | 温度、圧力、履歴を含める |
| AI判断を保護より上に置く | 安全側動作が弱くなる | 保護要求を上位制約にする |
| 試験と接続しない | 図だけで終わる | 遷移ごとに検証ケースを置く |
次に読むなら
次に読むなら、空調設計で活用するSysML図の優先順位:最初に習得すべき5種類 がおすすめです。このテーマの全体像を整理する柱記事です。
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まとめ
状態機械図は、空調機の冷房、暖房、除霜、異常停止、復帰を整理するための重要なSysML図です。制御ソフトの詳細実装をすべて描くためではなく、運転状態、遷移条件、保護要求、検証ケースを部門横断で確認するために使います。
状態を定義するときは、状態名だけでなく、入る条件、状態中の処理、出る条件、異常時の遷移を明確にします。冷房ではサーモオフや低負荷、暖房では除霜と復帰、異常停止では停止条件と復帰条件を分けることが重要です。AI制御を使う場合も、AI判断は保護要求より上位に置かず、欠損時や異常値時の扱いを定義します。
状態機械図を試験計画やFMEAへつなげると、制御仕様の抜け、異常時の未確認、復帰条件の曖昧さを早く見つけられます。空調設計では、定常性能だけでなく、状態遷移の品質が実機の信頼性と快適性を左右します。
次に読む記事としては、次の3本が自然です。
- パラメトリック図で熱収支・電力・COPを表現する方法
- 空調AI制御における安全要求とフェイルセーフ設計
- 空調機の異常停止ロジックを状態機械図で整理する


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